近年、腸内環境が、健康に及ぼす影響への関心が高まってきています。中でも興味深いのが、性格や気分など、精神状態にまで影響が及ぶということです。なんとうつ病や不安障害は、腸内細菌が健常人と異なり、腸内環境を変化させることで気分や行動が改善することが発見されました。
コロンビア大学の病理学・細胞生物学のミシェル・ガーション教授の、腸は人間の『第二の脳』であるといい、体内の95%のセロトニンが腸で作られていると言います。
セロトニンとは、別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、幸せを感じ、心を落ち着かせてくれます。
そのセロトニンの95%が脳ではなく腸で作られるのなら、腸内環境が気分や性格に影響を及ぼすことは想像に難くないでしょう。
人の腸内には多種多様の腸内細菌が住んでいます。その数百兆個とも、それ以上とも言われています。
なんと人体を作っている細胞の数よりも、体内に共存している微生物の方が多いということになります!
それらを顕微鏡で見ると「お花畑([英] flora)」のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。腸内細菌の種類や数は人によって異なります。その人の生活習慣や体質、年齢でも変わります。大きく、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けられ、そのバランスが重視されます。
ある研究では、ーある種の腸内細菌は、精神状態によい影響を及ぼす可能性があります。ストレスに対して体が適切な反応をとるために、そうした細菌が必要なのです。ーという結果が示されています。
マウスの実験で、腸内細菌を移植することで性格が変わったことが報告されています。腸内フローラの改善で、うつ病を治すことは科学的にも示されており、慶応大学や慈恵会医科大学でも便移植による腸内細菌の治療がIBS(過敏性腸症候群)に有効なことが示されています。
腸内細菌は、宿主のストレス応答や、行動特性を規定する重要な因子であることが示されています。
「腹が立つ」「断腸の思い」「胆力がある」「腹を探る」「はらわたが煮えくりかえる」「腹の虫が治まらない」など、感覚の表現を内臓で表す言葉はとても多いです。
内臓感覚ー。つまり、内臓と神経を通して気分や感情と関連する可能性が、実際に示されています。
東北大学大学院医学系研究科の福土審教授は内臓感覚に関して以下のように言及します。
内臓感覚は、動物進化の初期から存在しており、またわれわれの日常的な生活の前提になっている感覚でもあるので、かえって気づきにくく、これまで解析されることが少なかった。しかし外界の条件が一定でも、われわれの気分は刻々と変わります・・・(中略)・・・内臓感覚のコントロールで、陰性の情動、嫌な気分などを克服できるヒントが得られるはずです。
不安、怒りっぽい、悲しみなどが、特に人よりも大きいと感じる方は、腸内環境が悪いことが原因であることも考えられます。精神薬を使ったり、自分自身をせめてしまわずに、まずは日頃の食事を見直し腸内環境の改善をはかってみてください。
「Our Second Brain: The Stomach(第二の脳:胃)」Psychology Todayより
「慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室」 Integrated Innovation Lab for Psychiatry
「病気の8割は腸とミトコンドリアで治る!(2015) 」西原ワールド