部屋の温度バリアフリー化で、健康も知的生産性も手に入る

部屋の温度バリアフリー化で、健康も知的生産性も手に入る

部屋の “温度の段差を無くす” のは健康と成功の鍵

室内環境は、「健康」と「生産性」という2つの面において、人生を大きく左右します。

まず日本では、部屋の温度差による健康被害があまり広く知られていません。特に、寒い冬に気をつけたいのが「ヒートショック」。さらに、「仕事の効率を上げるために室内環境に投資する」という考えも、欧米に比べると浸透していないようです。

室内環境の健康への影響は大きい

健康寿命について

2000年にWHO(世界保険機関)が初めに提唱したのが「健康寿命」。健康寿命が「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。寿命までの残りの期間は、「健康ではない期間」ということになります。

日本の平均寿命と健康寿命の差は、男性が約9年(平均寿命80歳、健康寿命71歳)、女性が約12年(平均寿命86歳、健康寿命74歳)です(厚生労働省「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会資料」(平成26年10月)より)。

平均寿命 健康寿命
男性 80.21歳 71.19歳 9.02年
女性 86.61歳 74.21歳 12.40年

死の直前まで元気でいること、いわゆるピンピンコロリでいるためには、健康寿命を伸ばすことが大事です。WHOでは、「ジャカルタ宣言」で健康を規定する13個の要因をあげています。

  1. 平和
  2. 住居
  3. 教育
  4. 社会保障
  5. 人間関係
  6. 食料
  7. 所得
  8. 女性の地位
  9. 安定的な生態系
  10. 持続可能な資源の利用
  11. 社会的な公正
  12. 人権と平等の擁護
  13. 貧困

まず第一に重要なのが「平和」。その次に「住居」をあげています。健康を保つためにいかに住居が重要視されているかが示されています。

その住環境についての中でも、化学物質、ダニ、カビ、ハウスダスト、窒素酸化物などの空気の汚染問題、結露やヒートショックなどと繋がる温熱の問題があります。

その中でも特に重要なのが住居の温熱環境です。以下の図は「高気密・高断熱住宅への転居と有病割合の関係」を示した表(伊加賀俊治、江口里佳、村上周三、岩前篤、星旦二ほか:健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価、日本建築学会環境系論文集、Vol76,No.666 2011.8)です。

転居前 転居後
アレルギー性鼻炎  28.9% 21.0%
 アレルギー性結膜炎  13.8% 9.3%
高血圧性疾患  8.6% 3.6%
アトピー性皮膚炎  7.0% 2.1%
気管支喘息  6.7% 4.5%
関節炎  3.9% 1.3%
肺炎  3.2% 1.2%
糖尿病  2.6% 0.8%
心疾患  2.0% 0.4%
脳血管疾患  1.4% 0.2%

表を参照すると、すべての項目において、高断熱高気密住宅に転居すると疾患が改善していることがわかります。それだけ、住宅の温熱環境と疾患には関係性が不快と言えます。

ヒートショック

ヒートショックとは、急激な温度変化によって起こる健康被害の一つです。冬場の入浴時に特に多く現れます。

1年間で、交通事故による死者数のおよそ4000万人に対し、入浴中の事故死者数は1万4000人と、交通事故の約4倍にのぼります。
急激な温度変化により、血管の収縮と拡張が繰り返され血圧が変動し、血管や脳に負担がかかります。突然のめまいや身体の痛み、頭痛。さらには、失神や心筋梗塞、脳梗塞、不整脈を引き起こす恐れもあります。

ヒートショックは冬場に最も多く、被害者数は12〜1月は、最も少ない8月の10倍にのぼります。暖房で暖められた部屋(24℃)から、寒い廊下を通り、脱衣所で服を脱ぎ、また暖かい湯船に浸かるまでに、血圧が大幅に上下します。
寝ていてトイレに起きた場合も当てはまります。暖かい布団の中から、寒い廊下、トイレへ行く時も血圧に負担がかかり、これがヒートショックを引き起こす要因になるのです。

欧米では暖かい家に住むことが当たり前

欧米においては、脱衣所や浴室、トイレ、刑務所に至るまで、18℃以上が保たれており、暖かい室内に住むのは当たり前の人権と認識されています。それに比べると、冬場、10℃以下になってしまう日本で一般的に多い室温レベルは、発展途上国レベルと言えます。人が普段いる部屋だけを暖房で温めればいいという日本と、建物自体の断熱性能を高めて全体を暖めるという欧米との、考え方の違いがあります。

ヒートショックで亡くなるのは大きな問題ですが、それ以外の若い人、女性や子供でも、身体にストレスが溜まり少なからず悪影響は出ていると言われています。若い人であろうと、他人事ではない問題です。

「暖かい家」は健康を裏付けている

スマートウェルネス住宅等推進事業(国土交通省)の「断熱改修等による居住者への影響調査」から得られた結果によると、

断熱改修によって室温が上昇し、それに伴い居住者の血圧も低下する傾向が確認された。

という知見が得られています。(https://www.mlit.go.jp/common/001158517.pdf

血圧は脳卒中や心筋梗塞とも関連が深く、高血圧の人ほどリスクは高まります。

現状では、そのような人々が、冬とても寒い家で過ごしているのです。住宅の断熱性能を高める事で、病気のリスクを軽減することができるので、これを改善するべきです。

さらに同資料の参考データによると、断熱性能の高い住宅が普及している国では、冬季死亡増加率が低いことがわかっています。最も低いのは、寒冷なフィンランド。高いのは温暖なポルトガルやイギリス、イタリアです。寒冷な国や地域ほど、住宅の性能が高くなったために、冬の死亡増加率が低いというのも、逆説的な話です。この傾向は、日本にも当てはまります。

日本では、最も冬季死亡増加率が低いのは、北海道です。断熱性能の高い住宅の普及率が、最も高いためだと言われています。

これからは、より温暖と言われていて、高断熱住宅の普及が少ない地域ほど、住宅の断熱性能を高めなければなりません。

部屋の環境で知的生産性が上がる

会社の事務員も、学校の勉強も、オフィス、教室などの室内で行われます。暑すぎたり、寒すぎたりしたら集中力も持続しないことは想像に難くないでしょう。室内環境への投資は、どれだけ効果を発揮するのでしょうか。

様々な研究結果

コールセンターの事例

D.Wyonの実験では、室内空気質の良否で、知的作業効率は6〜9%影響すると推定されます。作業者の賃金を考えると、室内空気改善のために投資した金額は、2年以内に回収できると報告しています。

国土交通省の研究

国土交通省で、室内の環境が良くなれば、知的生産性(仕事や学習の効率)が上がるので、その経済効果を図る研究がされています。その中でも、室温が重要になるのは、事務作業や、論理的思考に影響があるといいます。

ある夏に行った実験によれば、25.7℃(わずかに適温より暖かい温度)にした場合に効率が最も良く、28℃の時は15%も効率が落ちたそうです。

子供の学習効率の変化

ある研究では、教室環境を変化させた確認テストを用いた実験が行われました。その結果、

  • 換気量を小→大に変化させたことで、平均点が8〜10%向上。特に、成績下位群で、大きく向上した。
  • 被験者の主観でも、「講義有効時間が向上(=ロスしたと思う時間の減少)」
  • 室温が25℃付近で学習効率のピークを迎え、低温、高温でも、学習効率は低下する

以上のような結果が得られました。室内の温度、空気質により、勉強や仕事の効率も変わることが示されました。室内環境を見直すことで、皆さんのお子さんの成績や、仕事の成果も、向上するかもしれません!

費用対効果は

オフィスコストの構成から

一般的に、オフィスコスト(人件費、賃料、通信費、その他)の中で最も大きいのが人件費です。このことから、人件費の効率を最大化することが求められています。

設備投資の観点から

環境の良い空間のためには建物の省エネルギー性を高めることも現実的に重要です。ある研究では、建物に関わる投資額に対して、建物内で行われるビジネスの価値は1桁以上大きいので、その投資をビジネスの価値向上により回収するのは容易だとしています。

室内環境次第で知的生産性は高まる

室内環境で仕事の生産性を上げるという考えは、これも欧米では取り入れられており、良い環境のオフィスを借りるために高い家賃を借りるという考え方が一般的になっているそうです。

生産性には、室内の温度だけでなく、照明やCO2濃度、天井の高さや窓の位置などの間取りに至るまで、多くの要素が絡みます。部屋を変えることで、子供の勉強の成績や、仕事の効率がアップするかもしれませんね!

体感温度や湿度も重要

「体感温度」は壁や窓の温度で変わる

寒くなると、常に暖房をつけていないと辛いという人も多いのではないでしょうか。エアコンの設定温度も人によって違いますが、それはエアコンの性能の違いではなく、体感温度の違いかもしれません。

エアコンやストーブに、現在の室温が表示されますが、実際の体感温度はそれだけでは決まりません。人の体は、周囲の物と、温度のやり取りをしています。これを輻射(ふくしゃ)と言います。そうすると、周囲の物の温度と、室温の平均値が体感温度になるのです。つまり、室温が20℃あったとしても、窓の表面の温度が10℃しかなければ、体感温度は15℃になってしまいます。

エアコンやストーブの設定温度は25℃、26℃以上にしないとうちは寒い!という方。窓の近くに行くとより寒くありませんか?断熱性能の高い窓や壁にすることが、根本的な解決につながります。

乾燥を防ぐために加湿器だけを使うデメリット

冬になると特に、空気の乾燥が気になりますよね。乾燥は肌の大敵ですし、インフルエンザなどの感染リスクも高まります。冬はどうしてもと、暖房を使うと湿度は下がってしまいますので、その時に加湿器も一緒に使うとします。

室温が20℃で、理想的な湿度と言われる60%にすると、12℃で結露が発生します。一般的なアルミサッシはこれ以下の温度になりがちですので、結露が発生し、部屋の湿度を奪ってしまいます。つまり、断熱性能の低い窓のサッシや壁は、除湿機の役割をしてしまうのです。

加湿器をつけながらもサッシが結露していたら、まるで穴の空いているバケツに水を注ぎ続けているようなものですよね。最近広まってきている断熱リフォームは、乾燥対策のためにも有効なんですね。

まとめ

ヒートショックの問題をはじめとする健康リスク、そして子供の勉強の効率の違いなどを見てみると、室内の温度ってすごく大事なことなんですね。

「健康」や、「子供時代に勉強した頑張り」は、失ってから、時間が過ぎてからでは、二度と取り戻せないものです。そう考えると、室内環境への投資は大きなものですが、それ以上の価値を生み出すと思います。

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